私の父親が命を落としたのは加古川の神鋼病院であるが、この病院に救急車で運ばれて入院したとき担当になつた医師(忘れもしない男前の山名医師である)が治療する気を全く見せなかつたのは驚く べきものだつた。
当直医のあとを受け継いだと言ふその医師(これまた忘れもしない角谷医師である)は、CT画像とレントゲン写真と血液データを見せながら、患者の血圧低下が著しく長く生きる見込みがないことを我 々に納得させることにばかり熱心なのだ。
そして、血圧低下の原因を何ら明らかにすることなく、この患者が心停止に陥つたときに心臓マッサージをすることが如何に無駄であるかを、反論を許さない強 硬な態度で、我々に向つて説き続けた のである。
これまでの常識では、一日でも一時間でもいや一分一秒でも患者の命を永らへさせることが医者の使命だつたはずだ。ところが、この医師にとつては、何らかの 原因 で血圧低 下に陥つた高齢患者を一日でも早く病院から立ち退かせることにしか興味がないかのやうだつた。
そして、まるでこの医師の仕事は心臓マッサージをしないことを我々に決断させたことで終了したかのやうに、その後我々の前に二度と姿を見せることはなく、 父の最期はインターンが看取つたのである。
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